人間というものは、普段からよく目にしていることを、案外ちゃんと覚えていなかったりするもんです。
何度も見ているはずなのに、いざ思い出そうとすると思い出せない。そんな経験は誰にでもあるんじゃないでしょうか。
てなわけで、今まで何度も見ているはずなのに見えてない例として、今回取り上げてみたいのは「日本刀の正しい差しかた」です。
ご存知のとおり、日本刀には反りが入っていて、片方が刃、片方が峰になってますが、武士が腰に日本刀を差すときに、どっち向きで差すのが正しいのか、ってことです。
つまり、
こんなふうに刃が下向きか、
それとも、刃が上向きか、ってことです。
自分は「たぶん、こっちが正しい」と今まで思いこんでたんですけど、アニメなんかを見ていて「あれ?ひょっとして、こっちが正しいの?」と疑問に思ったんで、今回調べてみました。
それで調べた後に、周囲の何人かに聞いてみたんですけど、どっちが正しいかわからない人が多かったです。よく理解してないのは自分だけかと思ってたんですけど、どうもそうじゃない模様。
さて、刃が下向きと上向き、どっちが正しいかわかりますか?
てなわけで、
シ
ン
キ
ン
グ
タ
ア
ア
ア
ア
ア
イ
イ
ム
それじゃ、正解発表です。
つーか、先に謝っておきます。思わせぶりなことを書いちゃって、ごめんなさい。
実は、これ、どっちも正解です。
以下で説明。
日本刀には太刀(たち)と打刀(うちがたな)の二種類があります。太刀は主に馬上での戦闘を想定しているため、長く、反りが強いものが多い。それに対して、打刀は地上戦闘用に作られているので、反りがなだらかで、抜刀しやすいようにできています。
そして、この太刀と打刀では携帯の仕方が異なっています。
太刀は刃を下(地面の方)へ向けて専門用具で腰につる。これを佩(は)くという。これに対し打刀はいつでも簡単に抜けるようにするため、腰の帯に差す。これを帯刀する(帯びる)という。室町時代後期は太刀とおなじく刃を下にしていた。これを天神差しという。それが、江戸時代初期に刃を上にするようになった。(そのため打刀の銘は左にほどこしてあり、飾るときも刃を上にして銘がある刀表を見せるようにする。)ただし乗馬の際には刀の鞘のコジリが馬に当たると馬がいうことを聞かなくなる恐れがあることから、天神差しにするという。
参考:打刀 - Wikipedia
つまり、時代によって変わるんですね、これ。
江戸時代初期までは、刃を下にする(天神差し)、江戸時代初期からは刃を上にして差す。
戦国時代を扱った大河ドラマを何本か試しに見てみたんですけど、たしかに、刃を下にして差していました。
風林火山
これはいわゆる打刀だと思いますが、太刀と同じように刃を下にして差しています。
ただし、これには例外もあります。
戦国無双というゲームに出てくる明智光秀は日本刀を差しているんですが、大河ドラマとは逆で、こんなふうに刃を上にしてます。
もっとも、戦国無双にちゃんとした時代考証を求めても意味がないような気はしますけど。
全裸で歩いている人に向かって髪の寝癖を注意しているようなむなしさを感じます。
なにしろ、薄幸の美女というイメージのお市が信長の
妹という部分だけをクローズアップされ、ロリロリの
妹キャラに変換されちゃうようなゲームですし。しかし、あのお市は気色悪かった・・・・・。
次に見てみるのが銀魂です。
銀魂が西暦でいうと何年くらいのお話なのか、よくよく考えてみるとわからないんですけど、とりあえず、あれは幕末をモチーフにしてます。
だから、刃のほうが上向きなわけです。
ちなみに、銀時は木刀を差していますが、真選組と同じ反りの方向で差しています。
銀魂の例だけだとちょっと信憑性がないかもしれないので、一応、書いておくと、大河ドラマの新撰組も同じような刀の差しかたをしてました。
ところで、私は今まで、日本刀は刃を下向きにして差すのが正しいと思ってました。つまり、江戸以前の差しかたのほうが正しい日本刀の差しかただと思ってたわけです。
こうして時代ごとによって差しかたが違うのがわかってみると、どっちが正しいと思っていたかで、その人がそれまでに見てきた時代劇が推測できたりするのかもしれません。
つまり、刃が下向きだと思っていた人は、戦国もの、もしくは源平ものをよく見てきた人だし、刃が上だと思っていた人は、幕末もの、または大岡越前、遠山の金さんといった、江戸の時代劇に慣れ親しんでいた人。まあ、こういった感じで。
ちなみに、漫画のバガボンド。
アレの時代はちょうど江戸初期にあたるわけですけど、ちょっと漫画を確認してみたら、刃を上向きにして差していました。
しかし、有名な宮本武蔵の人物絵を見てみると、どうも刃が下向き(つまり、天神差し)にしているように見えます。
剣聖 宮本武蔵(反りがあまりないのでわかりにくいですが)
しかし、ウィキの宮本武蔵の項に出てる絵では、逆に刃が上向きに。
宮本武蔵 Wikipediaこのウィキの絵は江戸末期に描かれたものらしいので、刃が上向きなのは、そうした時代的な理由もあるのかもしれないです。
まあ、正直なところ、どっちが正しいのかはよくわからないんですけど、これ。
また、戦国時代とか江戸時代に関係なく、日本刀が出てくる漫画、アニメがありますが、そういうのを見ているとどうも刃が上向きになってることが多いようです。
他にもいくつか確認してみたんですけど、自分の見た限りでは、すべて刃が上向きになってました。要するに江戸以降の差しかたです。
ぱにぽにだっしゅ!
さて、なぜ、江戸初期に刀の差しかたが上下逆になったかという話なんですけど、これは平地での戦闘が主になったからだそうです。なんでも、刃が上向きのほうが抜刀しやすいとか。
うーん、実際に日本刀を触ったことのない人間からすると、刃が下向きのほうが、なんとなく抜刀しやすい印象があるんですけど。
それはとりあえず、抜刀術(居合)といえば、るろうに剣心なわけです。普通はそうでしょう。
るろうに剣心は幕末、明治初期を舞台にしているので、当然、刃は上向きです。
あ!これは逆刃刀だから、刃は下向きでした。まあ、反りが銀魂とかと同じってことで。
ところで、るろ剣に天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)という、無駄に長い名前の必殺技があるんですけど、これは抜刀術です。
るろ剣のなかでは抜刀術がいちばん速いということになってるんですけど、これはどうなんだろうと前から疑問に思っていました。片手しか用いず、しかも鞘との摩擦も生じる抜刀術(居合)が最速であるってのは、どうも納得がいきません。
そもそも漫画に整合性を求めるのもどうかと思うんですけど、こういうのが気になるタチなので。
江戸時代から、(居合は)本当に剣術に対抗できるのか、存在意義はあるのか、といった論争がある。「身に着けないよりは身に着けておいたほうが良い」と言ったものから、「居合は近間の飛び道具(のように恐ろしいもの)である」といった高い評価まで各種の論がある。居合の初撃・発剣(抜き打ち・抜き附けなど)にはかなりの速度があり伸びもあるのだが、片手打ち[1]であるためどうしても諸手の威力には敵わない。[2] 護身用・危機回避のための技術であり、積極的に使うものではないと考える流派が多い。
参考:抜刀術 - Wikipedia
これを読むと、江戸時代からそういう疑問は持たれていたみたいです。
実際の抜刀術がどうしても見たくて、YouTubeとかでいろいろ見てたんですけど、お爺ちゃんが登場してきてスローモーションで抜刀、「えいやー」と掛け声かけて袈裟切り、これなら自分でもできそう、みたいな動画しかなくてがっかりしてたんですけど、そんな中、武術家の甲野善紀先生の居合がありました。
残念ながら、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)は見せてくれないんですけど、それでも、こりゃ、すげーや。
もともと、甲野先生のファンだったこともあるんで、贔屓目で見てるのかもしれないですけど、速い、速い。
なるほど。居合っていうのはスゴい技術なんだなあと感服しました。
しかし、いちばん最初の演舞がもし寸止めでなかったら、甲野先生が明らかに
刺し殺されているように見えるんで、やはり居合ってのは、そう積極的に使うものではないみたいです。